愛犬が体をずっとかいている姿は見ていてとてもつらいですよね。
そんな犬のかゆみに対して、近年よく使われている薬がオクラシチニブです。
オクラシチニブはかゆみを抑える効果が高く副作用が少ないとされている薬です。
ただ犬アトピー性皮膚炎では長期的にオクラシチニブを飲むことが多く、本当に安全かどうかが気になる飼い主様もいらっしゃるでしょう。
今回はオクラシチニブの安全性と減薬するための取り組みについて解説します。
ぜひ最後までお読みいただき、愛犬のかゆみのない快適な生活のために役立ててください。
オクラシチニブとは
オクラシチニブは犬アトピー性皮膚炎の治療に使われるかゆみ止めの薬です。
かゆみや炎症を起こす特定の分子の作用を抑制するため、分子標的薬と呼ばれます。
効果と安全性の高さから、かゆみ止めとしてよく使用されています。
以前はかゆみ止めといえばステロイドでしたが、ステロイドは体全体に作用するためさまざまな副作用が起きます。
ステロイドの副作用は以下が代表的です。
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肝障害
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糖尿病
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腎障害
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全身の石灰沈着
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消化管障害
一方でオクラシチニブは特定の分子を標的にするため、ステロイドのような副作用がほとんどありません。
このためオクラシチニブはステロイドよりも安全に使用することができます。
オクラシチニブに副作用はある?
オクラシチニブは副作用のほとんどない安全性の高い薬です。
オクラシチニブの有効性・安全性については大規模な臨床試験がされており、試験中に起きた犬の体の異常はすべて報告されています。
投薬中に起きた体の異常を有害事象と呼びますが、これは必ずしも副作用とは限りません。
有害事象にはたまたま起きた症状や、その犬のもともとの体質や病気の影響も含まれます。
オクラシチニブを長期的に飲んだ犬の5%以上で起きた有害事象には次のものがあります。
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膀胱炎
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嘔吐・下痢
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外耳炎・膿皮症
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白血球の減少
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肝酵素の上昇
それぞれについて見ていきましょう。
膀胱炎
膀胱炎はオクラシチニブを飲んだ犬の11.3%で報告されています。
ただ膀胱炎は尿石症など薬以外の体質や食事、ストレスなどが原因で起きることもあります。
別の研究では過去に膀胱炎を発症していない犬でオクラシチニブを投与したところ、膀胱炎はほとんど発生しなかったことも示されています。
嘔吐・下痢
嘔吐はオクラシチニブを飲んだ犬の10.1%、下痢は6.1%で発生したと報告されています。
実際、内服薬についてはオクラシチニブに限らず、飲み始めて数日のうちに嘔吐や下痢をすることは時々あります。
症状が軽ければ大きな心配はいらず、休薬して対象療法をすれば治ることがほとんどです。
外耳炎・膿皮症
外耳炎はオクラシチニブを飲んだ犬の9.3%、膿皮症も9.3%で見られました。
ただそもそも外耳炎や膿皮症は犬アトピー性皮膚炎でよく見られる症状のひとつです。
このため外耳炎や膿皮症という有害事象はオクラシチニブが原因である可能性は低いと考えられます。
結局、オクラシチニブは安全?
オクラシチニブは使い方を守れば安全な薬といえます。
頻度が高く、かつオクラシチニブと因果関係が明らかで、命に関わる重篤な有害事象は報告されておりません。
以下の2点に注意すれば、オクラシチニブを安全に使うことができると言えます。
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嘔吐や下痢があれば一時的に休薬
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定期的な健診(尿や血液など)
投薬中は愛犬の様子をしっかり観察し、定期的に健診を行うことでいち早く有害事象に気付くことが大切ですね。
オクラシチニブを減薬するためにできること
オクラシチニブは安全性の高い薬ですが、長期的には減薬することが大切です。
明確な副作用の認められていないオクラシチニブですが、減薬することで有害事象の頻度を減らせる可能性があります。
減薬には以下のようなケアが有効です。
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腸活
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栄養素の摂取
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保湿
腸活
腸活はオクラシチニブの減薬におすすめです。
腸活により腸内細菌が改善されると、過剰な免疫反応が抑えられてオクラシチニブの投与量が減らせる可能性があります。
乳酸菌やオリゴ糖を含むサプリメントを3か月以上続けると効果を感じやすいです。
腸活についてはこちらの記事を参考にしてください。
犬の腸活完全攻略ガイド|腸と皮膚の意外な関係とは
オメガ3脂肪酸
オメガ3脂肪酸の摂取はオクラシチニブの減薬に有効な栄養素です。
オメガ3脂肪酸は皮膚や関節などさまざまな場所の炎症を抑える効果があります。
オメガ3脂肪酸を与えると、オクラシチニブを減薬してもかゆみがぶり返しにくくなることが報告されています。
保湿
保湿はオクラシチニブの減薬をサポートするのに有効な手段です。
1日2回以上の日常的な保湿は皮膚のバリア機能を改善させてくれます。
これによりアレルゲンが侵入しにくくなり、オクラシチニブを減薬できることがあります。
保湿についてはこちらをチェックしてみてください。
犬に保湿は必要?|皮膚トラブルを防ぐ正しい保湿ケアとは
まとめ
犬のかゆみ治療に使われるオクラシチニブは効果が高く安全性も高い薬です。有害事象の多くは薬が原因とは限らず、また起きても一時的なものが多いです。
投薬中は愛犬の様子をよく観察し、定期的な健診を行えば大きな問題はありません。
長期的には腸活などのケアを取り入れることで薬の量を減らすことも大切です。
ぜひ今回の記事を参考に、愛犬のかゆみのない快適な生活をサポートしてあげてください。

どうぶつの皮膚科・耳科・アレルギー科主任皮膚科医
伊從 慶太
アジア獣医皮膚科専門医・獣医師・獣医学博士(獣医皮膚病学)
麻布大学を卒業後、岐阜大学連合獣医学研究科にて博士課程を修了。
東京農工大学、ドイツミュンヘン大学およびスウェーデン農業科学大学において小動物および大動物の皮膚科研修を経て、2015年にアジア獣医皮膚科専門医を取得。
現在は、どうぶつの皮膚科・耳科・アレルギー科で診察を行う傍ら、全国の獣医師に対する教育活動や学会活動、細菌性皮膚疾患、スキンケア分野を中心とした研究活動を行う。