日本の夏は暑くて湿度の高い季節であり、体がかゆくて動物病院を受診する犬が増える季節でもあります。
「夏は頻繁にシャンプーをしないと愛犬の皮膚がべたべたしてかゆくなる」
という飼い主様もいるのではないでしょうか。
犬の皮膚がべたべたしてかゆみがひどい時は、マラセチア性皮膚炎になっているかもしれません。
今回は、犬のマラセチア性皮膚炎と夏にかゆみが悪化する理由について解説します。
ぜひ最後までお読みいただき、愛犬の皮膚のかゆみに悩んでいる方は参考にしてみてください。
犬のマラセチア性皮膚炎とは
犬のマラセチア性皮膚炎とは、マラセチアという菌が異常に増殖して皮膚に炎症とかゆみを起こす状態のことです。
マラセチアは皮脂をエサにしており、皮脂を利用する過程でかゆみ物質を生み出しています。
このマラセチアは伝染する菌ではなく、健康な皮膚にもわずかに存在する菌です。
ところが、犬アトピー性皮膚炎などの病気で皮脂が出やすい犬では、マラセチアが異常に増殖することがあります。
このため、犬がマラセチア性皮膚炎になると皮膚がべたべたしてかゆみが強くなります。
犬のマラセチア性皮膚炎の原因
犬のマラセチア性皮膚炎の原因は皮脂が出やすくなる病気です。
皮脂が出やすくなる代表的な病気として、以下のものがあげられます。
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犬アトピー性皮膚炎
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食物アレルギー
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本態性脂漏症
それぞれについて解説します。
犬アトピー性皮膚炎
犬アトピー性皮膚炎は、マラセチア性皮膚炎の原因として最も多い病気です。
犬アトピー性皮膚炎の犬は環境中のアレルゲンに反応すると、皮膚に炎症が起きると同時に皮脂を盛んに分泌します。
そのためマラセチアが皮脂をエサにして増殖し、皮膚のかゆみを助長します。
治療にはかゆみ止めの薬を使いますが、犬アトピー性皮膚炎は完治しない病気であり生涯にわたって治療が必要です。
食物アレルギー
食物アレルギーはマラセチア性皮膚炎の原因のひとつです。
食物アレルギーの犬はアレルゲンとなる食材を摂取すると、皮膚に炎症が起きて皮脂が分泌され、マラセチアが増殖することがあります。
本態性脂漏症
本態性脂漏症は遺伝的に生まれつき皮脂腺からの皮脂の分泌が多い病気です。
皮脂が盛んに出るのでマラセチアが増殖しやすく、重度のマラセチア性皮膚炎になることが多いです。
遺伝性疾患のため根治させることは難しく、シャンプーやスキンケアなどの対症療法が中心になります。
犬のマラセチア性皮膚炎の治療とシャンプー
犬のマラセチア性皮膚炎の治療で重要なのはシャンプーによって皮脂とマラセチアを減らしながら、原因となっている病気を治療することです。
そのため原因となっている病気は犬によって違うとしても、適切なシャンプーが重要だということは共通しています。
マラセチアに対して効果的なのは抗菌成分を含んだシャンプーですが、皮脂にも目を向けてクレンジングシャンプーや入浴を併用することも有効です。
シャンプーによって皮膚のバリアが障害を受ける可能性があるため、シャンプー後には保湿をすることをお勧めします。
犬のマラセチア性皮膚炎は夏に悪化する?
犬のマラセチア性皮膚炎は夏に悪化することが知られています。
日本の夏は高温多湿であり、皮膚の温度が上がって皮脂の分泌が盛んになります。
特に脇や鼠径部のようなしわの部分にはマラセチアが繁殖しやすいです。
また夏場はカビ、ダニ、雑草の繁殖が活発になるため、犬アトピー性皮膚炎の犬の場合はアレルギー反応が起きてマラセチアが増殖しやすくなります。
このため夏は、とくに皮脂を抑える治療やシャンプーの重要性が増します。
夏に向けた犬のマラセチア皮膚炎の対策
犬のマラセチア性皮膚炎が悪化する夏に向けて、何か対策があればやってみたいですよね。
夏にマラセチア性皮膚炎が起きるのを防ぐ対策として、外側からのスキンケアと内側からのスキンケアの2つを紹介します。
外側からのスキンケア
外側からのスキンケアとして有効なのは保湿です。
マラセチアが増えやすいような皮膚はバリア機能が弱く、保湿をすることで皮膚バリアを補強すると炎症が起きにくくなります。
皮膚の炎症が起きにくくなると、マラセチアや皮脂の過剰な分泌も防ぐことができます。
犬の保湿に関してはこちらにまとめているのでチェックしてみてください。
内側からのスキンケア
内側からのスキンケアとして、腸活とオメガ3脂肪酸が効果的とされています。
それぞれについて説明していきます。
腸活
腸活はアレルギーを起こしにくい皮膚を作るうえでとても有効な方法です。
腸内細菌を改善することでアレルギー反応が起きにくくなることが証明されています。
腸活は即効性はありませんが、腸活のサプリメントを3か月以上継続することで効果実感が得られることが多いです。
夏に向けて早いうちに腸活を開始することで、愛犬がマラセチア性皮膚炎のかゆみに悩まされるのを防げる可能性があります。
腸活についてはこちらにまとめているので、ぜひ参考にしてみてください。
犬の腸活完全攻略ガイド|腸と皮膚の意外な関係とは
オメガ3脂肪酸
オメガ3脂肪酸の摂取は、マラセチアが増殖しにくい皮膚を作るうえで重要です。
オメガ3脂肪酸は魚の油に含まれるDHAやEPAなどの脂肪酸のことであり、皮膚の炎症を抑える作用があります。
オメガ3脂肪酸を効率的に摂取するには、サプリメントやオメガ3脂肪酸を豊富に取り入れたドッグフードを与えるとよいでしょう。
まとめ
今回は夏に悪化するマラセチア性皮膚炎について解説しました。
マラセチア性皮膚炎の治療では、マラセチアが増える原因の治療とシャンプーを行うことが大切です。
夏はマラセチア性皮膚炎が悪化しやすいため、スキンケアを実践することが大切です。
愛犬が蒸し暑い夏を快適に過ごすために、適切な治療に加えて内側と外側からのスキンケアもこころがけてみてください。

どうぶつの皮膚科・耳科・アレルギー科主任皮膚科医
伊從 慶太
アジア獣医皮膚科専門医・獣医師・獣医学博士(獣医皮膚病学)
麻布大学を卒業後、岐阜大学連合獣医学研究科にて博士課程を修了。
東京農工大学、ドイツミュンヘン大学およびスウェーデン農業科学大学において小動物および大動物の皮膚科研修を経て、2015年にアジア獣医皮膚科専門医を取得。
現在は、どうぶつの皮膚科・耳科・アレルギー科で診察を行う傍ら、全国の獣医師に対する教育活動や学会活動、細菌性皮膚疾患、スキンケア分野を中心とした研究活動を行う。