犬の皮膚病へのステロイドの作用・副作用|ステロイドに頼らない治療法を皮膚科獣医師が解説

犬の皮膚病へのステロイドの作用・副作用|ステロイドに頼らない治療法を皮膚科獣医師が解説

顔を痒がっている白い犬
「皮膚病の愛犬にステロイドを飲ませていたけど副作用が心配」
「ステロイドの使用をなるべく少なくしたいけどやり方がわからない」
こんなお悩みを抱えている犬の飼い主様もいらっしゃるのではないでしょうか?
ステロイドは皮膚病に対して比較的よく使われる薬ですが、副作用も多く存在する薬です。

今回は

  • ステロイドの作用・副作用
  • ステロイドの副作用を減らすためにできること

について解説していきます。
皮膚病の犬を飼われている方は、ぜひ最後までお読みいただき、ステロイドの悩みから解放される方が1人でも増えていただけると幸いです。

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ステロイドとは

ステロイドとは動物病院で使われる薬の一種です。
正しくはステロイドホルモンのことであり、ステロイドホルモンは生殖腺や副腎という臓器から分泌されます。
このステロイドホルモンを医薬品として使用しているものが、いわゆる私たちがステロイドと呼んでいるものですね。
ステロイドの中にも様々な種類のものがありますが、医薬品の中でも最も一般的なものが糖質コルチコイド系のステロイドホルモンです。
今回はこの糖質コルチコイド系のステロイドについて解説します。

 

ステロイドの作用

ステロイドには

  • 炎症やかゆみを抑える力
  • 免疫を抑える力

などがあります。

皮膚科領域では痒みを伴うような皮膚炎や、免疫のバランスが崩れることにより発症する皮膚疾患で使用されます。
ステロイドには

  • 早く効く
  • 治療効果が高い
  • 値段が安い

という特徴があるため、様々な場面で使われていますね。

ステロイドの副作用

顔を痒がる柴犬
ステロイドの副作用には

  • 多飲多尿
  • 免疫力の低下
  • 筋量低下
  • 肝酵素の上昇
  • 血糖値上昇
  • 行動の変化
  • 皮膚への影響

などがあります。

このうちのステロイドの外用薬が皮膚へ影響を及ぼすものを総じてステロイド皮膚症と言います。

 

ステロイド皮膚症とは

ステロイド皮膚症の症状は

  • 皮膚が薄くなる
  • 毛が抜けやすくなる
  • 毛穴が広がって汚れが溜まる
  • 皮膚にカルシウムが沈着して皮膚が硬くなる
  • 感染が起こりやすくなる

などがあります。

このような変化があった場合にはステロイドの使用を中止することを目標に徐々に使用量を減らすことが第一の選択肢になります。

 

ステロイドの使用量を減らすためにできること

ここまでお話ししたようにステロイドには様々な副作用があります。
ステロイドの使用量は最小限にしたいところですよね。
しかしステロイドを減らすと、皮膚病の症状は高い確率でぶり返してしまうものです。
ここからは犬アトピー性皮膚炎を例に、ステロイドの使用頻度を減らすためにできることを紹介します。

犬アトピー性皮膚炎でステロイドを減らす例

痒がっているチワワ
犬アトピー性皮膚炎は強いかゆみを伴う炎症疾患でもあり、免疫のバランスが崩れることにより発症する疾患でもあるため、ステロイドが非常によく効きます。
ステロイドがよく効くからこそ長期間の投与になってしまうことが多いです。

ステロイドではない系統の薬を使う

犬アトピー性皮膚炎の薬には様々なものがあります。
それぞれの薬の作用は、かゆみが発生するサイクルを止めたり、免疫を調整して症状を緩和するものですね。
一般的なものとして

  • オクラシチニブ
  • ロキベトマブ
  • シクロスポリン

などが挙げられますね。
薬を組み合わせて使用することでステロイドの使用量を減らせることが多いですね。
しかしこれらの薬にも、ステロイドほど多くはありませんが、副作用が存在します。
それぞれの薬の副作用が発現しないように組み合わせる必要があります。

 

保湿する

犬アトピー性皮膚炎は皮膚のバリア機能が低下することによって症状が悪化する皮膚病です。
皮膚のバリア機能は保湿によって改善することができ、犬アトピー性皮膚炎の症状を緩和することができるでしょう。
ある犬アトピー性皮膚炎の研究では、セラミド系の保湿を約3ヶ月間継続することで、薬の使用量を1/4まで減らすことができたといわれています。
それだけアトピー性皮膚炎に対しては保湿が有効ということになります。

 

腸活という新しい選択肢

犬アトピー性皮膚炎の症状は腸内環境と密接に関連しています。
腸内細菌のバランスが整うことによって、全身の免疫系を整え、皮膚の健康維持に貢献します。
腸活には

  • 乳酸菌などの善玉菌を投与するプロバイオティクス
  • 善玉菌の成分や産生物を投与するバイオジェニックス
  • 善玉菌のエサとなるオリゴ糖や食物繊維を投与するプレバイオティクス

などがあり、組み合わせることで相乗効果も期待できます。
近年ではプロバイオティクスのパラカゼイ菌とプレバイオティクスのケストースというオリゴ糖を投与すると、犬アトピー性皮膚炎に効果があったという報告がありますね。
犬アトピー性皮膚炎の治療に腸活を取り入れることによってステロイドの使用量が減ったという報告もあります。

腸活は薬やスキンケアだけではなく、普段から摂取するもので犬アトピー性皮膚炎の症状を緩和できる新しい選択肢といえますね。

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まとめ

ステロイドはその効果の高さゆえに多用されがちな薬です。
しかし、ステロイドの使用頻度を減らす方法や、ステロイドに頼らない治療方法も存在します。

本記事では犬アトピー性皮膚炎を例にステロイドの使用頻度を減らす方法について解説しました。
他のステロイドが使われる皮膚病でもステロイドの使用頻度を減らす方法が存在します。

ステロイドを使うための正しい知識を身につけ、ステロイドの副作用から解放される犬が少しでも増えてくれれば幸いです。

 

記事監修者

どうぶつの皮膚科・耳科・アレルギー科主任皮膚科医
伊從 慶太
アジア獣医皮膚科専門医・獣医師・獣医学博士(獣医皮膚病学)

麻布大学を卒業後、岐阜大学連合獣医学研究科にて博士課程を修了。
東京農工大学、ドイツミュンヘン大学およびスウェーデン農業科学大学において小動物および大動物の皮膚科研修を経て、2015年にアジア獣医皮膚科専門医を取得。
現在は、どうぶつの皮膚科・耳科目・アレルギー科で診察を行う傍ら、全国の獣医師に対する教育活動や学会活動、細菌性皮膚疾患、スキンケア分野を中心とした研究活動を行う。