犬の耳の入口には、犬種によってはたくさんの毛が生えています。
トリミングのときに愛犬の耳の毛を抜いてもらう飼い主様は多いでしょう。
犬の耳の毛は不要に見えるかもしれませんが、実は大切な役割を持っています。
また耳の毛をむやみに抜くと、耳の中に炎症が起きてしまうことも多いです。
今回は犬の耳の毛を抜くリスクや、抜くべきタイミングについて解説します。
ぜひ最後までお読みいただき、愛犬の耳の健康を保つために役立ててください。
犬の耳の毛について
犬の耳の毛は耳の中を外部の物質から守る大切な役目を果たしています。
耳の毛は耳の入り口を塞ぐことで、外からホコリや異物が入るのを防いでいます。
花粉など環境アレルギーの犬にとって、耳毛は耳に入るアレルゲンをブロックしてくれる重要な存在ですね。
このため耳の毛が多い犬種であっても、耳の中の衛生のためにはむやみに毛を抜かないことが推奨されます。
耳の毛が生えやすい犬種
耳毛は犬種によって、生える量や生え方が異なります。
耳の毛が多い犬種は以下が代表的です。
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トイ・プードル
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ミニチュア・シュナウザー
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マルチーズ
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シーズー
逆にミニチュアダックスフンドや柴犬などは耳毛がほとんど生えていません。
耳の毛が多い犬は耳の中の通気性が悪く、湿気がこもりやすいですね。
そのため愛犬の耳の毛を動物病院や美容院で抜いてもらっている飼い主様も多いです。
しかし本当に健康な耳の毛を抜いてしまっていいのでしょうか。
犬の耳の毛を抜くとどうなる?
健康な犬の耳の毛を抜くと、外耳炎を起こしてしまうことがあります。
外耳炎を防ぐために耳の毛を抜いたほうがいいと考える飼い主様もいらっしゃいますよね。
しかし無理に耳の毛を抜くと、毛根の周りに炎症が起きることが多いです。
犬の毛根の周りに炎症が起きると、皮膚の常在菌が増殖して外耳炎を起こします。
特に犬アトピー性皮膚炎の犬では皮膚が弱いため、耳の毛を抜くことで外耳炎になりやすいです。
そのため健康な耳をしている犬の耳の毛は、基本的に抜かないほうが安全です。
犬の耳の毛を抜く場面
健康な犬の耳の毛を抜くリスクを解説しましたが、耳の毛を抜くべき場面もあります。
犬の耳の毛を獣医師が抜く場面は以下の2つです。
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すでに外耳炎のとき
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外耳炎を繰り返しているとき
それぞれについて説明します。
すでに外耳炎のとき
すでに犬が外耳炎になっている場合は、耳の毛を抜くことが必要です。
外耳炎を起こしている犬では、耳毛に耳垢が絡みついてしまうことがあります。
耳毛が耳垢で固まると薬が耳の奥まで届かなくなり、治療がうまくいきません。
そのため獣医師の判断で耳毛を部分的に抜いたり、カットしたりすることがあります。
外耳炎を繰り返しているとき
外耳炎を繰り返していて、定期的に診察を受けている犬でも耳の毛を抜くことがあります。
外耳炎になりやすい犬では耳の毛が増えて耳の湿度が上がると、細菌やマラセチアが増えやすくなります。
このため外耳炎の再発防止を目的に病院で耳毛を整えることも多いです。
ただしこれは自宅で行うべきではなく、動物病院で行うのが安全です。
耳毛を抜いた後は炎症を抑える薬を点耳して毛穴の炎症を予防することが必要になります。
犬の外耳炎を予防するためのおうちケア
犬の外耳炎の予防には耳の毛を抜くよりも、より効果的なおうちケアがあります。
犬の外耳炎の予防には体の内側と外側の両方からのケアが効果的です。
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腸活
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エリスリトール
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食事の管理
それぞれについて見ていきましょう。
腸活
腸活は犬の外耳炎を防ぐ上で重要です。
腸活によって腸内細菌が改善すると、アレルギー反応が起こりにくくなります。
犬アトピー性皮膚炎の症状が緩和されると、外耳炎の発生も予防できることがあります。
腸活は乳酸菌やケストースを含むサプリメントを3〜6ヶ月続けて与えることが重要です。
腸活についてはこちらもチェックしてみてください。
犬の皮膚の健康によいバイオジェニックスとは|バイオジェニックスの働き
エリスリトール
エリスリトールは犬の外耳炎を予防するうえで有効な成分です。
エリスリトールはマラセチアやブドウ球菌などの耳の常在菌に対する静菌効果があります。
静菌効果とは菌を殺菌せずに増殖を抑える効果のことです。
このためエリストールは耳の正常細菌叢を壊さずに病原菌の増殖を抑えることができます。
エリスリトールを耳に使う場合は、エリスリトール含有の点耳ローションが便利です。
エリスリトールについてはこちらもチェックしてみてください。
犬の皮膚の健康とエリスリトールの関係|エリスリトールの作用を解説
食事の管理
食事の管理は犬の外耳炎を予防するうえで重要です。
犬は食物アレルギーによって外耳炎を起こすことも多いです。
アレルギーがある犬では、特定の食材が耳の炎症を悪化させることがあります。
愛犬の耳がかゆくなる方は、動物病院で相談して適切なアレルギーフードを選びましょう。
アレルギー検査や除去食試験によって愛犬に食物アレルギーがあるかどうか調べることも重要です。
まとめ
犬の耳毛は外からの刺激やホコリから耳を守る大切な役割を持っています。犬の耳が外耳炎もなく健康である場合、耳の毛を無理に抜く必要はありません。
むしろ抜くことで犬の耳の中に炎症やかゆみが起こるおそれがあります。
ただし外耳炎がある場合は獣医師の判断で耳毛を処理することがあります。
耳の毛を抜くかどうかは獣医師の判断のもとで判断することが大切です。
今回ご紹介したおうちケアを活用して、愛犬の耳の毛を抜かずに外耳炎の予防に取り組んでみてください。
どうぶつの皮膚科・耳科・アレルギー科主任皮膚科医
伊從 慶太
アジア獣医皮膚科専門医・獣医師・獣医学博士(獣医皮膚病学)
麻布大学を卒業後、岐阜大学連合獣医学研究科にて博士課程を修了。
東京農工大学、ドイツミュンヘン大学およびスウェーデン農業科学大学において小動物および大動物の皮膚科研修を経て、2015年にアジア獣医皮膚科専門医を取得。
現在は、どうぶつの皮膚科・耳科・アレルギー科で診察を行う傍ら、全国の獣医師に対する教育活動や学会活動、細菌性皮膚疾患、スキンケア分野を中心とした研究活動を行う。

